独断と偏見によるミステリ初心者女オタク向け国内ミステリシリーズ四選
突然ですけど、私、ツイッターでは「なんでもいいから女オタは本格ミステリを読めお化け」として活動をしてるんですね。たぶんもう三年くらい。
なんかまあ経緯は色々あるんですけど、私は本格ミステリが好きだし、萌えるし、他人と良さを共有したいし、好きな本に売れてほしいんですよ。でも2016年現在女オタにとってミステリ小説というのは比較するわけでもなくマイナーで、じゃあもう布教するしかねえってわけで「女オタは本格ミステリを読めお化け」をやっているわけです。
で、今です。2016年2月現在です。日テレであの作家アリスシリーズが「臨床犯罪学者・火村英生の推理」としてドラマ化されてるじゃないですか。結構おもしろくできてるし人気も出てるじゃないですか。女オタが原作に手を伸ばし始めてるじゃないですか。
「なんでもいいから女オタは本格ミステリを読め」お化けとしてはこの機会を逃すわけにはいきません。
きっとドラマを見た女オタ諸氏は「えっ、三十路男性ふたりがこんな仲良くするのはアリなの!?」って思って原作を買ってるだろうし、読んで「アリなんだ…」って思っているだろうし、ついでに「本格ミステリって面白いな!?」と思っているに違いない。ていうかツイッターで見てる、そういう人。
じゃあ「他のも読んでみようかな?」と考える人もいるかもしれない。
しかし本格ミステリというジャンルは広大で、いざ手をつけようにもどうしたらいいかわからないだろう。いや、まあ、作家アリスシリーズ自体めっちゃ大量にあるし、同作者の学生アリスシリーズとかもアツいんでその辺からいけばいいと思うんですけど、でも他の作家のも読みたいかもしんないじゃん!? ね!?
……という書き出しで、諸事情により一年以上放置されている下書きを発掘したのでサルベージしようかなという気になりました。
もう火村どころか貴族探偵が月9になってる世界だよ!?ナメてんの!?
まさか麻耶作品が月9になるとは夢にも思わなかったよね~!一年前の私おめでと~~~~!
ということで、「今まで全然ミステリというものを読んだことがなかったんだけど、これを機に他にも読んでみようかな」という女オタ諸氏のため、私が日頃ゴリ押ししているミステリ作品紹介をまとめておこう、というのが今回のエントリです。
結構継続していくつかの作品をゴリ押ししてるのですが、中でも今回は以下の四点を満たすだろうものをざくっとまとめることにしました。
そういう感じで行ってみましょう。
「キングレオの冒険」円居挽
まずは唐々煙先生の美麗表紙が今回のテーマにばっちりなこの作品を。
ミステリとして
「日本探偵公社」なる公的探偵組織が存在する日本・京都を舞台に、名探偵・キングレオこと天親獅子丸が助手で従兄弟で親友の天親大河と共に華麗な活躍を見せる連作短編集です。謎はシャーロック・ホームズがモチーフだとか、日本探偵公社って要するにJDCだよね、とかそういうことがあるんですが、そんなことよりわかりやすいのはこの作品がファンの間でどう呼ばれてるかです。「合法BL」です。
一作目からいきなりBLとか言ってんじゃねえよ!って感じですけど、だってこれ作者の円居先生がツイッターで言ってたんだもん!公式で合法BLなんだもん!急に作者にそんなこと言われるもんだからこっちもびっくりしたわ!!
と言っても実際に獅子丸と大河が恋愛関係にあるというわけではなく、有り体に言えばブロマンスですね。BBCシャーロックやドラマ火村の探偵助手みたいなノリです。
元々円居先生が「探偵助手の関係性を楽しむのに差し障りのない程度の謎を提供する」的なことを仰っていた通り、謎自体はあっさりめで探偵助手の関係性をグサグサ刺してくる作品になっています。グサグサ刺してくるけれども、「媚びてるな~」と感じるほどあざとくはない、天才的なバランス感覚だと思います。
謎があっさりめと言っても手を抜いてるわけではなく。筋道は正統派だし、最後には円居先生お得意の探偵VS探偵の推理バトル(ざっくり言うと逆転裁判みたいな感じです)もあり、十分ミステリとして楽しめる作りになっています。ミステリ初心者も安心。連作短編なのも読みやすくていいですよね。
キャラものとして
もう大分書いてしまいましたが、とにかく探偵・獅子丸と助手・大河が強いわけです。
獅子丸は才色兼備で不遜で強くてもうすごいんですけど、それが心を許して信頼している数少ない人間のひとりが大河なわけで。大河は獅子丸には劣るといっても探偵になってもおかしくない頭脳や、それなりのビジュアルを持ってて優秀なんですけど、やっぱりどこかで獅子丸には勝てないと思っているというか。互いに互いの物事の基準が相手な節があるんですよねこの二人は。探偵と助手で同じ年の従兄弟で幼馴染で親友。アツい。
無論獅子丸・大河以外にも魅力的なキャラがごろごろ出てきます。獅子丸も大事にしている大河の妹・陽虎ちゃんとか(頭の回るボクっ娘美少女ですよ!)、その陽虎ちゃんがお気に入りの謎の美少年高校生・城坂論語とか。
円居先生はセリフ回しや決め台詞が厨二カッコ良いですし、いろんなキャラが和気あいあいしてるのが見られて楽しいと思います。
余談
「キングレオの冒険」の世界、実は「丸太町ルヴォワール」に始まるルヴォワールシリーズのパラレルワールドなんですよね。ルヴォワールシリーズでは日本探偵公社はないけれども、双龍会なる私設裁判がある世界で、大学生たちの人生を掛けた推理と青春とどんでん返しが見られます。特に一作目「丸太町ルヴォワール」はキングレオと明確にリンクしていて、ある意味別解のようなものなので是非!城坂論語が主人公の一人だよ!
ちなみに「キングレオ」とほぼ同じ世界観のものとして「シャーロック・ノート」シリーズもあったり。円居作品はいろんな世界、いろんな角度からキャラを見れるので楽しいです。
名探偵三途川理シリーズ 森川智喜
シリーズ作:「キャットフード」「スノーホワイト」「踊る人形」「ワスレロモノ 名探偵三途川理VS思い出泥棒」「トランプソルジャーズ 名探偵三途川理VSアンフェア女王」「バベルノトウ 名探偵三途川理VS赤毛そして天使」
二番目にこれを持ってきたら割と殺されそうだけれど負けないぜ!三途川理シリーズです。書影は私が一番可愛いと思っているBOX版スノーホワイトのものだけど文庫もあるよ。
ミステリとして
名探偵と自称はしても、悪魔のようでずる賢くて悪名高い、ダークヒーローな高校生探偵三途川理が主役のシリーズです。これがね~めっちゃ面白いんですよね~!!
まず、ミステリ小説っていうと、事件発生→調査→推理→解決のプロセスを辿るのが一般的だと思うんですけど、三途川シリーズはそうじゃない。基本的には探偵VS探偵の推理バトル。これさっきキングレオでも言ったな。
円居作品の推理バトルはひとつの事件・謎に対して探偵たちがそれぞれ推理して、それの揚げ足を取ったり矛盾をつく、ルール無用の逆転裁判方式のことが多いんですが、三途川シリーズは方向性が違います。目的を達成するため、敵役探偵の思考を推理して、先読みして、裏をかいて、欺いて、論理を持って蹴散らし勝利を目指す。みたいな。特に二作目「スノーホワイト」では実質探偵三人の三つ巴の様相となり、あっちを立てればこっちがひっくり返る、しっちゃかめっちゃかな展開になってめちゃくちゃエンターテイメント。
また、森川先生はギミックの使い方が上手い。「キャットフード」では化け猫、「スノーホワイト」では魔法の鏡、「踊る人形」では人造人間と、ファンタジーなギミックを主軸に持ってきて、それに関する制約やルールがキャラの推理や行動に影響してくる。縛りプレイになるんですよね。ルールの抜け道からあっとなるような行動をしてきたりするので、目が離せなくなります。超アツい。
とにかく色々作りがおもしろくて、こういうのもミステリなんだ!と思えるシリーズだと思います。
キャラものとして
とにかく三途川理というキャラが良いです。自称・名探偵なんですがめちゃくちゃずる賢く、自分の利益のためならとんでもない手段を取るし殺人だって躊躇しません。名探偵とは一体…。独特の饒舌っぷり、外面の良さ、「けけけ」という笑い方、悪どさ、それでいて男子高校生なので宿題をやったりするかわいさ。何なんだ三途川理。キャラデザもめっちゃかわいいです。(画像の鏡の中の少年ですね)決め台詞は「ド畜生!」。かわいい~(何なんだ)
ちなみにライバル探偵として同じく男子高校生の緋山燃くんもいますが、彼も良いキャラです。ゲーム好きの普通の男子高校生だった緋山くんが探偵となる物語が「キャットフード」だと私は思っています。彼は現時点では「キャットフード」「スノーホワイト」のみ登場。三途川とは違って正統派で硬派な探偵の雰囲気と、男子高校生らしさが共存していてカッコ良い。
…というのを一年前(2016年2月)に書いてたんですが、5月に出たシリーズ最新刊「バベルノトウ」で緋山くんが四年ぶり?とかの再登場を果たしました。誠実かつ正義感を持った名探偵としての緋山燃と、悪徳名探偵三途川理の共同戦線が相互不理解の上カタストロフィを迎える良作でしたのでこれもぜひ。
森川作品のキャラはみんなどこかちょっと抜けてて愛嬌があって飽きません。
余談
とりあえずは「キャットフード」からシリーズ刊行順に読むのがおすすめですが、「スノーホワイト」が一番魅力が出ていてとっつきやすいと思うので、いきなり「スノーホワイト」でもいいんじゃないかと思います。文庫落ちもしていますが、BOX版は装丁が凝っているし挿絵も豊富なのでオススメ。とは言え高いからやっぱり文庫版がいいよね…。
と一年前に書いているが2017年夏現在だとBOX版はそもそもレーベルが死に体というのもあって入手困難になってきてるっぽい?ですね。
「ワスレロモノ」以降は講談社タイガにレーベル移行しており、これはかなり入手しやすいです。ただ、ちょっとミステリ度は控えめになってきているかもしれない。「名探偵」ものだなといった塩梅です。めちゃくちゃおもしろいのは変わりませんけど!
ワスレロモノからでもいいですよと言っていたけれど、最新のバベルノトウはキャットフードとスノーホワイトを読んでからの方がいいかなと思ったので、やはりできれば刊行順で、ぜひ。
名探偵音野順の事件簿シリーズ
シリーズ作:「踊るジョーカー」「密室から黒猫を取り出す方法」
あんまり癖の強いものばかり紹介してもあれなので正統派なものも。ところでシリーズ表記はこれでいいのか。
世界一気弱な探偵役・音野順とその友人の推理作家・白瀬白夜のコンビがえっちらおっちら謎を解く短編シリーズです。
ミステリとして
キャラや事件がちょっとおとぼけてる部分がある、いわゆるユーモアミステリーですが、人は死ぬし、かっちりした物理トリックで、文句無しの「本格ミステリ」です。(たぶんキングレオと三途川は本格かっていうと揉める)(三途川は本格ミステリ大賞取ったけどな!)
物理トリックを短編でキャラ小説的に読める作品ってあんまりないんじゃないかなという気がしますがどうなんでしょう。読書傾向が偏っていて物理トリック系に弱いのであれなんですけど…。
密室を作るために大掛かりな工作がされていたり、凶器に工夫をしていたり、「トリック」と聞いてまずイメージするような謎が展開されている短編集だと思います。そはいえ、キャラの言動や物語の展開がユーモラスでとぼけているので、肩の力を抜いて気楽に読めるのではないでしょうか~。
キャラものとして
何につけても探偵助手です。
ひきこもりで、放っておくとどんどん暗いところへ行ってしまうような、世界一気弱な探偵・音野順が超キュートなのは言わずもがななのですが、私は助手の白瀬白夜が好きです。
音野とは学生時代の友人で、彼の才能に惚れ込んで探偵事務所を開いてやって家賃を払い、事件現場に引っ張って行って、彼をモデルに推理小説を書き、それで生計を立てているからと収入の半分をくれてやる。正直この執着は怖い。探偵事務所は白瀬自身の仕事場と兼用だから家賃を払ってやるのはまあいいとして、音野がそこに住んでるのも怖いし、何より収入の半分をあげてるのが怖い。何その執着。音野は迷惑そうにしてる節がありますが、それでも白瀬が新しい机とかを持ってきてやると一緒にきゃっきゃはしゃいでいる…何なんだ…。なんだかんだで仲良しで持ちつ持たれつやっているいいコンビだと思います。けど白瀬が怖い。
ちなみに文庫版では山中ヒコ先生がイラスト付きで応援コメントを寄せていたり、山本砂鉄子先生によるコミカライズもあったりします。コミカライズ、かなり丁寧にやられているようなので(私は一巻しか読んでないです)、そちらから入ってみるのもいいかと思います!
裏染天馬シリーズ
シリーズ作:「体育館の殺人」「水族館の殺人」「風見ヶ丘五十円玉祭り」「図書館の殺人」
続いてもうひとつ正統派なものを。学校に棲みついている色々ダメな感じの男子高校生探偵・裏染天馬がアニメの円盤を買うため事件を解決するシリーズです。
ミステリとして
青崎先生は「平成のクイーン」と呼ばれているだけあって、やっぱり推理がすごい!なんて言っても全然意味不明だと思うのでもうちょい丁寧に説明します。
ミステリといえば魅力的なトリックだ!というのが一般的なイメージだと思うんですけど、魅力的な推理というのもあるんですよね。
状況や証拠から論理立てて、謎を解いて、真相と犯人を明らかにするというのが「推理」なんですけど、これが丁寧にやられているとめちゃくちゃ美しい。このシリーズにはそれがあります。
現場の状態は謎だらけで、容疑者はたくさんいるし、何がどうなっているのか全然皆目見当がつかない、というところから、要素要素を論理的に検討して、可能性を潰して、除外していくことで、最終的に犯人が炙りだされる。その過程がめちゃくちゃに鮮やか!
しかも、最後に推理を完成させるのは例えば黒い傘一本だったり、モップとバケツだったり、現場に残されたたったひとつの何気ない証拠なわけです。その証拠のある点、盲点だったところに着目した瞬間、混乱していた状況が一気に筋道立って、可能性が一気に潰されて、容疑者がたった一人に絞り込まれるという、その瞬間が読んでいてわかるように書かれているのですごい!カタルシス~!というわけで、「推理」入門に是非おすすめしたいシリーズです。
キャラものとして
これまではずっと探偵助手が両方男性のシリーズを挙げてきたんですが、裏染シリーズは頭脳明晰・眉目秀麗だけれどアニメオタクな探偵役・裏染天馬と、文学少女風スポーツ少女な助手役・袴田柚乃という男女コンビもの。
日常生活ではダメ人間だけれど、決める時は決めて格好良くて、頭は良いけど他人の心に鈍感で、でもどこか陰があってワケありそうで、あるところ以上は踏み込めないイケメン探偵が嫌いな女オタはいないと思います。そしてそんな探偵に振り回されて助けられて、はっきり恋愛感情があるわけではないけれど、妙に気になって過去を探ろうとしてしまう少女、という構図が好きな女子も多いはず。私がそうだからみんなそうに違いない!ということで、裏染&柚乃はそういう探偵助手コンビなわけです。すげえ長くなったな。
二人でわいわい漫才みたいなことをして、時にはカップルかと勘違いされて、でも柚乃は裏染のことを何にも知らないし、知ろうとしても近づけない。シリーズが進むごとに裏染の過去が少しずつわかってきますが、これが全部明らかになったとき柚乃はどうするんだ!?という感じで二人の行く先がめちゃくちゃ気になります。
あと、裏染シリーズを語るにあたっては「百合」要素も欠かせません。女の子同士の恋愛。別に作中で百合という言葉がその意味で使われるわけではないし、恋愛が本当に書かれてるわけでもないんですけど、そのエッセンスは散りばめられていて確実に百合。あざとい百合からさりげない百合まで様々な百合が見出だせてアツい。
そんな感じで学園でのわちゃわちゃ青春と、百合と、人間の暗がりと、本格推理がまとめて楽しめる贅沢なシリーズだと思います。
短編が一本まるっと読める試し読み冊子がKindleで無料配信されていますのでこの辺りから是非是非。 ちょうどもうすぐ短編集の文庫版も出るよ。
ということで2016年2月くらいに書いて放置していたエントリサルベージでした。(多少加筆したよ)
今なら青崎作品ならノッキンオン・ロックドドアを推すし、「その可能性はすでに考えた」とかも盛り込むだろうな…という感じですけど、まあとりあえずこのくらいで。
きっとみんなめちゃくちゃおすすめしてる作品群でおもしろみはないかもしれませんが、いいんだよ!みんながおすすめしてるってことはそれだけおもしろいってことなんだよ!
おわります
*1:単純に全作読んでいないと私がやりづらい。嘘を言うかもしれないし。
*2:これは賛否両論あると思うんですけど、やはりキャラ萌えできるかどうかというのはオタクにとっては重要だと思います。馴染みのないジャンルでは余計に。萌えるキャラの有無は読み進めるモチベーションになるし。今回は「今までミステリを読んだことがなかったけれど、ちょっと気になってきた」という女オタにオススメしたいので絶対に外せないと思いましたというか最重要項目です。
*3:キャラ萌えは重要だがミステリの良さも伝えられないと意味が無い。楽しかったり面白いのは前提です。しかし私はめちゃくちゃ読書範囲が偏っているので「お前それを初心者に読ませる!?」みたいなのばかりなのはご了承願いたい。
*4:女オタって「なるべく新刊で買いたい」って人が多い印象なので。いきなり古本屋をハシゴしろと要求するのも無理がありますし、絶版でないもの、書店で見つけやすいもの、せめて電子書籍があるものに限りました。なので最近の作品が多い。私だって本当はJDCも入れたかった。国内に絞ってるのは私が国内しか読んでないからです。