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ぐるぐる読書備忘録

腐った女子の漫画(女性向け中心に何でも)・小説(ミステリ中心)感想ブログ。

なごみ探偵おそ松は確かに「探偵」だったという話(おそ松さん八話)

はいお久しぶりですこんにちは。前回の更新から一年くらい経ってますけど、相変わらずグズグズ女オタクやってます私です。

女オタクと言っても概ね国内新本格ミステリをだらだら読んでは萌えるばかりで、流行とは無縁の女オタク生活を送ってるんですが、今期は何と!旬の作品にハマってまして!流行の最前線!そうですおそ松さんです!!もう毎日毎日おそ松さんのことばかり考えていて、毎週月曜が楽しみでなりません。最高です。理不尽ドタバタギャグアニメとして最高であるのはもちろん、機能不全家族ものとして見れることも最高ですし本当人生が楽しい! オタクに生まれてよかった!

そういう感じで七話を見て予告から八話がミステリネタであることがわかり、一応ミステリ好きの端くれとしては一体どんなネタをやってくれるんだろう!?ってわくわくして色々妄想しながら一週間待ったんですよね。

何しろ六つ子という設定はミステリ的にオイシい。入れ替わりネタからアリバイトリックからアゾートまでやりたい放題なわけですよ。しかも理不尽ギャグアニメなので。理不尽トリックもやりたい放題なんですよ。予告でおそ松が探偵役であることはわかっていたので、これは二時間サスペンスをパロりながら理不尽トリックオチに持って行くんだろうな?と結論づけてわくわく待ってたんですよ。

それが蓋を開けてみたらどうですか。驚きました。

おそ松さん八話Aパート「なごみのおそ松」は、ミステリにおける「探偵」というものの機能に着目して、理不尽ギャグアニメでしか描けない「探偵」像を打ち出してきたんですよ!! 完全な探偵回でした!!!!

ということで、今回は「なごみのおそ松」が一体どのように探偵回だったのかをざっくりまとめておきたいと思います。

 

まず今回の「なごみのおそ松」ですが、三話のデカパンマン同様、完全パロディ回であり、キャラの役割が平時と違うどころか六つ子が兄弟関係ですらないのが前提です。

どこぞの洋館で被害者・カラ松が死体で発見され、その捜査のためチョロ松警部とトド松警部補、鑑識・十四松、その他警察が捜査を開始。しかし、情報や証拠は少なく現場はピリピリ。そこにやってくるのがなごみ探偵・おそ松!

チョロ松「彼が捜査した殺人事件は二千件以上。だが、謎を解いたことは一度もない。彼の役目はただひとつ、殺人現場において謎やトリックが解けず、ついピリピリしてしまいがちな我々刑事の空気を和ませることだ!」

ということで、そんななごみ探偵・おそ松が次々と殺人事件が起こる洋館で場を和ませまくる!という筋書きです。

なごみ探偵・おそ松は捜査現場でマイペースに好き勝手動きまわり、遺留品はひっくり返すわ、ダイイングメッセージは消すわ、「犯人はこの世の何処かにいます!」とか推理でも何でもないようなことをおおっぴらに宣言したりと、場を和ませまくります。真面目に捜査や推理をする気は全く無し。とにかく場を和ませるだけ。

それに対して序盤のトド松は再三「あいついる意味あります!?」「役立たずじゃないですか!」とツッコみ、最終的には「探偵でも何でもない、ただのバカじゃん!」とまで言うわけです。

ここでトド松が言う「探偵」というのはおそらく我々が一般に想像する「探偵」のことでしょう。殺人現場で警察と同様に捜査を行い、推理し、謎やトリックを解き明かし、真実を示し、事件を解決に導く存在としての「探偵」です。

なごみ探偵・おそ松はこのような「探偵」らしい行動はほとんど一切行いません。一応捜査らしきことはしますし、推理めいたことも披露しますが、おそらく彼自身に真剣に捜査や推理をする気は全くないでしょう。ダイイングメッセージを消した際に「どうせ意味なんてわかんないって」と発言していることからもこれは確実だと思います。連続殺人を食い止めようと言う気もありません。殺人が起こり続ける現場で、場を和ませ続けるだけ。これでは「探偵でも何でもない」と言われてもしょうがない。

しかし、チョロ松はそういうおそ松を一貫して「探偵」と呼びます。捜査も推理も真っ当にしない、事件を解決する気のない存在は果たして「探偵」なんでしょうか?

先に結論を言いますと、これがちゃんと「探偵」なんですね。なごみ探偵・おそ松は完全に「探偵」だった。

ミステリ作品において「探偵」という存在はひとりのキャラクターである以上に、舞台装置や道具としての側面を持っています。これについては以前に書いた探偵と夢主についてのエントリ*1でざっくりまとめているので今回ははしょります。

とりあえず、めちゃくちゃ大雑把に言うと、ミステリにおける「探偵」というのは装置であり、その機能は「推理によって事件の真相を明らかにする」ことです。

そして、ミステリという物語の上で、この機能は目的に応じて二分することができます。「謎やトリックについて論理的説明を行うこと」「事件や謎に対する恐怖や不安から人間を解放すること」です。

この前者について着目した結果の「探偵」像が先述の「殺人現場で警察と同様に捜査を行い、推理し、謎やトリックを解き明かし、真実を示し、事件を解決に導く存在」でしょう。なごみ探偵・おそ松はこの機能に関しては完全に放棄しているということは述べました。

しかし、後者の機能についてはどうでしょうか。作中では刑事側に焦点が当てられているため「恐怖」や「不安」という言葉は用いられていませんが、類似の感情である「イライラ」について、おそ松はこれを確実に解消しています。というか、作中でハッキリと「なごみ探偵」とはそういう存在であると示されています。

トド松「こ、この感覚は…新たな殺人が起きたというのに、全然イライラしない。それどころか精神がすごく安定している…!」

チョロ松「それがなごみ探偵の力だ」

 そうです。「なごみ探偵」とは、論理性や真実を明らかにする機能を完全に放棄して、場の不安や恐怖を取り除く機能だけに特化した探偵だったわけです。

しかも、その機能のために最終的には「あんまり和んだ犯人が自ら出てきちゃった」という形で事件を解決にまで導いています。もう完全に探偵です。探偵以外の何者でもありません。

 

ミステリの世界で「探偵」の役割性というのは非常に意識されていて、それに特化した探偵キャラも多く生み出されています。しかし、その多くは「論理性や真実を明らかにする機能」の方を重視し、そちらを強調・特化しているはずです。ミステリの世界で論理性を捨てるということは基本的にご法度で、やっちゃいけないことだからですね。ですから、どうしてもミステリの文脈としては「不安や恐怖を取り除く機能」というのは無視されがちになるのだと思います。

そもそも、この「不安や恐怖」というのは、真相がわからない、不条理だとしか思えない謎やトリックや、殺人事件や犯罪によって生じている感情なので、通常は論理的解決が与えられた瞬間に解消されてしまうわけです。こちらの感情的機能を無視していても、もう一方の論理的機能を全うさせればある程度は達成できる。

だからこそミステリの世界の「探偵」は論理的機能の方が重視されるのでしょう。というか、やっぱりどうしても論理性は捨てられないんですよ。「不安や恐怖を取り除く機能」に特化した探偵はやりづらい。産まれようがない。

しかし、おそ松さんはミステリアニメじゃなくて理不尽ギャグアニメです。ハナから論理なんて存在しないような世界です。

だからこそ、今回の探偵パロについて私は「この世界に論理なんてハナからないのに論理で事件を解決しようなんてバカじゃねーの?」という方針で行われるんだと思っていました。探偵なんてこの世界じゃ無意味だよ、ミステリなんてできないんだよと突きつけるんだと思っていました。でもそうじゃなかった。おそ松さんは「なごみ探偵」という「不安や恐怖を取り除く機能」だけを持った探偵を私たちに突きつけてきた。

「ここじゃミステリはできねーんだよ!」じゃなくて「ミステリじゃこれはできねーだろ!」だったんです。

正直言って感動しましたよ。なんかもう、すごいアニメだなと。おそ松さんという作品は、理不尽ギャグアニメじゃないとできないことを真っ向からやってのけてくれるんだなと。すごいですよ。

途中横溝正史ネタが含まれていたことからも、この「探偵」の描き方は意識的なものだったのではないかと思います。「探偵」というものの役割や機能をちゃんと認識した上で、理不尽ギャグアニメじゃなきゃできないことをやってみせた。

めっちゃくちゃクールですよ。完全に神アニメですよ。こんな真摯な理不尽ギャグアニメが今この時代に見られるなんて夢のようですよ。しかもミステリにも向き合ってくれる。すごい。

というわけで、作品内容としては全くミステリではなかったけれども、ミステリにおける「探偵」に理不尽ギャグとして真っ向から立ち向かっていった意欲作、「なごみのおそ松」をみなさんどうぞよろしくお願いします!!

特にミステリファンの皆様どうぞよろしく!!そしてもっときちんと論じてください!!私の知識じゃこれが限界だ!!!!

最後にこれに関する私の戯れ言ツイートを張って終わりにします。

*1:二次創作の一ジャンルである「夢小説」と本格ミステリを並べて語った狂気のエントリです

 

gurudoku.hateblo.jp