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秋★枝「恋は光」感想-「恋の光」と「交換日記」にまつわるキャンパスライフ

 

恋は光 1 (ヤングジャンプコミックス)

恋は光 1 (ヤングジャンプコミックス)

 

 ジャケ買いの一冊です。マット紙にグレーの背景、キラキラ輝く女性とカラーのキャラクター、ととにかく超かわいい!ロゴもかわいい!そして中身もとっても良かったよ!ということで感想です。

「恋の光」が視えてしまう大学生・西条は、恋を探求する女の子・東雲に恋をした──。視えるからこそ切なくて苦しい。今までにないラブストーリーが始まる。

と、これが帯に書かれているあらすじですが、読後感としては「切なさ」も「苦しさ」もあんまり感じませんでした。

主人公の男子大学生・西条は「恋の光」が見えるというロマンチックなことを言いますが、幼馴染の女子・北代さんからは「ハカセ」と呼ばれているように、理詰めでカチカチ話して頭でっかちな印象を受ける眼鏡男子。

中学のときに、一部の女子から発せられる光が見えるようになった彼は、考察の結果それを恋する女子から発せられる「我視可視恋愛光線」(=「恋の光」)と名付け、それがストーリーの根幹になっています。

そしてメインヒロインの東雲さん。表紙の真ん中のボブカットの女の子です。美人だけど物静かで、ちょっと風変わりで、「恋とは何か」をずっと考察している。

そんな二人が偶然出会って、「この人が俺に恋をしてくれたら」と西条が思って、まずは友達からと交換日記を始める。二人がマイペースに日記を交換する周りで、北代さんがアドバイスをしたり茶化したり、「好みのタイプは他人の彼氏」な宿木さんが西条に目を付けて、なぜか四人で交換日記を始めることになる……という好意が交錯するキャンパスラブストーリーになって行きます。

しかし先述の通り「切なさ」や「苦しさ」はあんまり感じられない。

それはキャラクターたちがみんな「恋」という、本来非理性的であるだろう事象を比較的理詰めで語ろうとしているからだと思います。

あだ名が「ハカセ」な西条や「恋とは何か」を考察し続ける東雲さんはもとより、幼馴染の北代さんも、彼が交換日記に書いた内容や行動にきちきち点数を点けていったり思考は論理的ですし、ギャルっぽい宿木さんも他人から彼氏を奪うための戦法をきっちり組み上げて畳み掛けていくタイプっぽい。

みんな頭できちきち考えて、それを言葉にしてコミュニケーションを取っていく感覚です。全体的にさっぱりとか、あっさりとか、淡々とした印象。

 

そういうこのお話のキーポイントである「恋の光」ですが、これが本当に「恋の光」なのか、実際のところははっきりとわかりません。

西条がその光を恋する女子から発せられる「恋の光」だと判断したのは経験則的なもので、実際の所のメカニズムはわからない。例外もいくつかある。

その最たる例は幼馴染の北代さんで、彼女は実のところ西条のことをずっと好きだと思っているのだけれど、西条から見て彼女が光っていたことは一度もない。

また、宿木さんも、西条のそばに東雲さんや北代さんがいるとき、「彼女たちから彼を奪ってやろう」と思っているときはぴかぴか光りますが、西条一人の時には光って見えない。

ほかにも、彼氏がいるはずなのに光って見えない女子もたくさんいたり、「恋の光」が何なのかは一種のミステリーとして置いておかれています。

西条は「恋の光」に対して常に考察を続けていて、それを北代さんにちょこちょこ相談したりしている。二人が「恋の光」は実際はどういう光なのか?を考察しているときの会話が、結構独特なテンポで魅力的だと思いました。

西条は経験則的にそれを「恋の光」だと言うけれど、彼のことを好きな自分が光っていないと言われると否定したくなる北代さん、というバランスも良い。(その気持ちが話をちょっと不穏な方向に進めるのですが……)

 

また、もう一つのキーポイントである交換日記の扱いも面白いです。

西条が買ってきた交換日記は、女児向けのもので「ひみつのしつもん」や「プチじまん」などテーマトークが用意されているもの。

そこに西条や東雲さんがどんなことを書いているか?それに対してお互いにどんな感想を抱くか?っていうのが結構描かれていて、これがまたちょっと独特なテンポでおもしろい。

一巻ではマイランキングコーナーでトイレットペーパーの格付けをしてみたりする西条と、自ら恋に対して問題を提示し、考察し、自己完結している東雲さんの一方通行なやりとりが伺えるところまでですが、今後北代さんと宿木さんの日記の内容も出てきたりすればもっと内容の幅が広がって面白いのではないのかな?とか。

交換日記という現代では随分アナログなのコミュニケーションと、外でのリアルな会話によるコミュニケーションが行ったり来たりして、独特のテンポと間ができているので、話の主軸に交換日記を持ってきたのはなかなか上手いと思います。

 

そういうこのお話ですが、西条や東雲さんのキャラ造形や、基本的に会話劇である点、キャンパスライフという点を合わせると、傾向としては森見登美彦作品っぽいかな?なんて個人的には思いました。

森見作品でも「夜は短し歩けよ乙女」あたりが好きな人は引っかかる部分があるかもしれません。

西条の理詰めな感じや、「我視可視恋愛光線」って単語とかとっても森見っぽいですし、東雲さんのビジュアルやちょっと風変わりな感じも森見作品頻出の「黒髪の乙女」的であります。

しかし最終的に西条は一種のハーレム状態に陥るわけですから、ちょっとジャンルは違いますね。

 

と、感想は大体こんな感じです。

ここにビビッときた!というような、必殺技のようなものがあるわけではなく、会話のテンポや作品自体の雰囲気がとても良い作品だったので、感想がいつもより大人し目ですが、結構な当たり作品だったんですよ! おもしろいです!

「恋の光」は実際どういう光なのか、西条と三人の女子の交換日記と関係はどういう風に落ち着くのか、続きが気になる作品でした。装丁かわいいし。装丁がかわいいのは正義だ。