町田洋「夜とコンクリート」感想‐世界が変わる瞬間、その視界
割と漫画レビューブログとか見てるし、書店での新刊チェックも週三くらいでしてるんですけど、どうにも女性向けに偏ってるので書店に入りにくい作品は発売を見逃しがちだったりします。
というわけでいまさらですが「夜とコンクリート」を読みました。
すっきりあっさりした静的な線と画面作りに、ぽつぽつとした、簡潔だけどしっかりした台詞に、どこか星新一チックな物語で前作「惑星9の休日」が話題でしたね。(こういう方向で話題だったかどうかは知らない)(私が今考えた)
前作もとても好きでしたが、今作はもっと好きかもしれない。
前作は惑星9という一つの小惑星が舞台のオムニバスでしたが(だから余計星新一っぽかったのかも)、今回は全作世界観は現代日本で固定です。だから前作より生活を身近に感じられる。そこにちょっとのファンタジー。何気ない日常が、ふとしたことでふっと変わる。
そんな感じの短編(といいつつ結構長い)が4作入った短編集です。
公式あらすじ的なものが見つけられませんでしたが、帯の文章が良い。
眠れない建築士と
建物の声を聴く男
丘の上の戦闘機と
ありふれた夏休み
君に逢えない僕と
屋上で見上げた空
夜とコンクリート
描き下ろしを除く三作のあらすじなわけであります。
詩的だし内容が簡潔にわかるし、字数が揃っててデザイン的にもすっきりして良い!こういうのに萌えます。ポエマーです。
そういや帯の文章って誰が考えてるんでしょうね?担当さんとか?でもこれはデザインになってるからデザイナーさん?わからない……
まあそんなことはどうでもいいのですが、表題作の「夜とコンクリート」は電脳MAVOの公式ページで公開されています。(http://www.shodensha.co.jp/yorutoconcrete/)
百聞は一見にしかず。私のぐずぐずした文章より実物を読んで頂ければびびっと来るかと思います。
でも私はぐずぐずと感想を書きたいので書いておきます。
世界が変わる瞬間
収録されてる短編はすべて「世界が変わる」物語だと思います。
「夏休みの町」ではありふれた夏休みが終わって。
「青いサイダー」では大切なイマジナリーフレンズの正体を知る。
描き下ろしの「発泡酒」では大学時代の思い出からの決別。
規模はそれぞれ違うのですが、どれも主人公の物事の見方が変わって終わる物語です。
「世界」というのは生きていく上で自分が見ている物事の集合体なわけで、「物事の見方が変わる」というのは「世界が変わる」のに他ならないのです。
ところで、です。
冒頭でも書きましたが、町田先生の漫画って静的な印象を受けます。絵柄と台詞の言葉選びもそうなのですが、何というか、無音の使い方が上手。
「夜とコンクリート」を読めばわかるかと思いますが、台詞の無いコマが結構あります。逆に台詞と背景だけのコマも。そういう画面の空白が、ちょっとの静かさと、息遣いのようなものを感じさせる要因になっているのではないかなと。
そして、そういった「無音」がすごく効果的に使われてるのが、クライマックス、要に「世界が変わる」シーンだと思うのです。
台詞の無い大ゴマ・見開きは、時が止まったような印象を受けます。
新しい世界、変わってしまった世界に、はっと息を呑むような、目を見張るような、そんな感覚です。そして見える世界はとても鮮烈。
そんな感覚がものすごーーーーくいいな!と思うのです。一種のカタルシスがあると思います。
それ系の画面作りをする作家さんとしてはほかに赤夏先生が好きなんですけどこれは余談です。とにかくそういうのにものすごく萌えます。
町田先生は簡素な絵柄がその鮮烈さや、一瞬の静寂を際立たせているように思うので、上手いな~と思うのです。
というわけで全然内容の感想にはなってないのですが、ここが好きだー!というところを思い切り主張してみました。
平凡な日常・世界が変わる瞬間が鮮烈で美しい、ちょっとだけ前を向いて生きていける、そんな物語がぎゅぎゅっとつまった短編集「夜とコンクリート」。是非是非。
ちなみに私は「夏休みの町」が一番好きです。(「青いサイダー」も捨てがたいけど)
夏休み+暇な大学生+異世界との交流、ときて好きなわけがない。
「青いサイダー」も夏の話ですが、夏っていいですよね。
きっと夏休みに非日常の感覚があるからですね。
以上、そんな感じでした。(うまくまとまらなかった)